応援メッセージ

地域活性化における人材育成とは
俵 慎一

一般社団法人日本食文化観光推進機構 専務理事
一般社団法人愛Bリーグ本部 専務理事
株式会社食のまちおこし総合研究所 代表取締役
1988年株式会社リクルート入社。求人情報誌・旅行情報誌事業を経て1998年独立、2009年ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会(愛Bリーグ)事務局長、2010年より (株)食のまちおこし総合研究所 代表取締役。2011年より愛Bリーグ本部 専務理事。2017年より(社)日本食文化観光推進機構 専務理事

 黒川さんとの出会いはリクルートの新入社員としての同期入社の年。お付き合いはかれこれ30年以上になります。営業マンとしてとても優秀だった彼の顧客に対する真摯な向き合い方は、新卒採用・中途採用の違いがありながらも非常に勉強になりました。

 私は中途採用事業でUIターン採用にも携わり、その後、国内旅行情報誌「じゃらん」で各地の自治体の観光情報発信事業に取り組みました。リクルートは10年ほどで卒業しましたが、この時の経験がきっかけで、現在の地域活性化事業に大きくかかわることになりました。

 現在、お互いに全く違うフィールドで仕事をしていますが、話をしていると実は共通することがいくつもあるように感じています。私が関わっているB-1グランプリというイベントは、B級グルメのコンテストと誤解されている方が多いと思いますが、実は飲食業ではない方々が多く携わっています。ご当地グルメを活かしたまちおこしという取り組みですが、有名になった「富士宮やきそば」を活用した地域活性化モデルができたことで、花やアート、まち歩きなど様々なテーマで取り組んだまちおこしが、たまたまご当地グルメによる成功事例で多くの方々が集ったというものです。

 まちおこしの活動は基本的にボランティアの取り組みで、地域の将来を危惧した地域の方々が自分の子供の世代でこのまちで仕事ができるよう、何とか地域を盛り上げたいという思いで様々な取り組みをしています。

まちおこしの取り組みは理念が大切であり、ボランティアの取り組みは危機感だけでは継続が難しいのが実情です。そこで取り組み自体の面白さが求められます。それはバカ笑いするような楽しさというのではなく、充実感や達成感、社会的意義など心の充足感による楽しさでなければ続きません。私たちの組織は緩やかなネットワークですが、多くの地域が実にユニークな取り組みをしており、それをお互いに共有しながら幅広い活動をしています。

 例えばローカル線の駅のホームを開放し「ビアホーム」という、ホームでバーベキューやビアホールをするイベント。地方ではなかなか駅に来ることのない子供さんに特急列車を間近で見てもらい、また20時には終了して周辺のお店に二次会で行けるよう配慮をします。

 例えばB-1グランプリに必要な食材として、玉ねぎや唐辛子を地元の農業高校の生徒が小学生に生産の指導をし、それを実際にイベントで提供する料理に使います。

 例えば高校の卒業式の日に地元の焼きそばのふるまいを駅で行い、ふるさとの味を忘れずに、いつか戻ってきてねと呼びかけます。

 他にも数多くありますが、これらの取り組みは結果的に地域のコミュニティづくりや、子供たちのキャリア教育に有効なのだとの評価をいただきます。自分の寄って立つふるさとに誇りを持つことや、子供のころに先生や親以外の見知らぬ大人たちと触れ合い、色々と感じることはとても大切なことなのだと聞きました。

 また学生時代のボランティアとはまた違う、非常に幅広い世代と交流する機会は、社会人として普通に仕事で関わる、組織の上下関係や顧客との関係性とは違うことを感じる機会ととらえる人も多いようです。

 黒川さんも国の事業や地域の人材育成にも幅広く関わられて来たと思いますが、大人になると、自分が何者なのか、どのようなことに興味があるのかなど、改めて自らを見直す機会は決して多くはありません。地方においては一層その傾向は顕著であるような気がします。

 図らずもコミュニティの再生やキャリアアンカーを考える機会になっているのかもしれないボランティアの取り組みですが、多くの方々の不安や悩みを聞くにつけ、地域の活性化のためには実はしっかりとしたキャリア支援の取り組みが、都市部以上に必要になっていくのではないかと感じています。

 私はサラリーマン、個人事業、団体役員、会社経営と様々な立場で仕事をしてきましたが、新卒で入社したリクルートの10年間で学んだことから大いに影響を受けていると思っています。例えば今でもたびたび考えさせられることを3つほどご紹介します。

 一つはどの部署に行っても、言い方は違えども必ず言われた「できない理由は聞いていない。どうしたらできるか聞いている」という言葉。理系出身で頭でっかちだった私にとって、10年間同じことを言われ続けたことは、現在も新たなことに取り組む原動力になっています。

 一つは新卒採用のリクルーターの際に言われた、「地頭がいいか」「コミュニケーション力があるか」「腹に熱いものがあるか」という要件の3つ目を確認するための魔法の質問。「高校・大学時代で涙が出るほど嬉しかったこと、涙が出るほど悔しかったことを教えてください」。悲しかった経験は対象外。高校・大学の多感な時期に涙が出るくらい何かに真剣に取り組んだ経験がなければ、リクルートという会社では入社してもお互いに幸せになれないだろうからとのことでした。

 一つはお客様に上司や後輩の愚痴を聞いてもらっていた時に教えていただいた「神社の階段」の話。目の前のうっそうとした森の中に続く神社の階段を想像する。最初の30段目までは後ろを振り向いても景色は変わらない。でも最初、何度も振り向いてしまうので、とにかくがむしゃらに登れという。新人は立ち止まるより最初はとにかく全力疾走して、あるところまでは最短で行った方がいいということの例え。

 さて30段目で振り返ると、遠くに山が見える。40段目で振り返ると山の麓に湖がある。50段目で振り返ると湖のほとりに観覧車のある遊園地がある。

 「もし君と上司が同じ段で同じ景色を見ながら話しているのであれば、きっと君が言っていることが正しいだろうと思う。でも君が30段目で振り向いた景色しか知らず、上司は40段目で振り向いた景色を知っていて、違う景色を見ているかもしれないと思って話を聞いてみてはどうだろう。」

 「逆にね。もし君が50段目にいるとしよう。でも君は30段目でしか振り向いておらず、山の景色しか確認していない。仮に後輩が40段目にいたとして、後輩は振り向いて湖の存在を知っていたとする。君は振り向けば50段目の遊園地の存在を知ることができるが、振り向いていないとしたらどうだろう。そんな風に考えて上司や後輩の話を聞いてみたらどうかなぁ」

 できない理由ではなく、どうしたらできるか。今、涙が出るほど真剣に取り組んでいるか。年上に対して、年下に対して、謙虚に話を聞けているか。

 私のキャリアにおいて少なからず影響を及ぼしたこれらの話は、今の仕事において自分ができているかと問われれば自信をもって答えられるかは疑問ですが、こうした昔聞いた話は全国60地域のネットワークの仲間と話をすることがあり、興味を持って聞いてもらえます。今後黒川さんと、地域活性化を意識した個々のキャリアのために、何かご一緒できるようなことがあれば嬉しく思いますが、それはともかく。今後の黒川さんの益々のご活躍を祈念しています。

2020年1月1日

俵 慎一

花田 光世  
(慶應大学名誉教授)

藤田 真也  (キャリアカウンセリング協会理事長)

三品 和広  (神戸大学教授)

三井 正義  (カラフィス社長・ダイバーシティ研究会理事長)

俵 慎一  (日本食文化観光推進機構専務理事)

黒崎 幸良  (Anaxis社長)

柳川 範之  (東京大学教授)

紫垣 樹郎  (インサイトコミュニケーションズ社長)

波田野 匡章  
(明星大学教授)

服部 正太  (構造計画研究所代表執行役会長)

今野 浩一郎  
(学習院大学名誉教授)

高津 尚志  
(IMD北東アジア代表)

木島 英治  
(キーワークス社長)

澤田 辰雄  
(サードインパクト社長)

内田 恭彦  (山口大学教授)

坂尾 晃司  (ベリタス・コンサルティング社長)

岡本 祐子 (広島大学名誉教授・東広島心理臨床研究室代表)

伊原 智人  (グリーンアースインスティテュート社長)

村井 保之  (長崎県庁)

横山 重宏  (MURC部長 上席主任研究員)

木村 樹紀  
(リクルート人事部長)

岸守 明彦  
(トリムタブ社長)

浅沼 俊和  (莫逆の友)

卓 子旋  (NRI上海顧問)

新井 重成  
(トレーナビリティ社長)