人は組織に対してあまりにも弱い存在です。
いくら、企業と個人は対等と言ってはみても、企業と個人は一対一の労働契約を結んでいてこの解消に苦しむのは概ね個人側です。
企業にとって、将来を担うコア人材の流出はとても打撃あるものですが、それはごく一部の世界です。
またそんなコア人材もいったん組織を離れれば、どれだけ組織ブランドに生かされていたのかを、思い知らされるという場面は珍しくもありません。
だから、個人は企業別労働組合を組織し、個人個人を守ろうとします。
企業が明らかに、個人を無視して企業理論のみを先行させたときには、個人は企業内で不満や不平の「声」をあげることになります。
この「声」が届けば企業姿勢が改善され、健全な方向へと向かうのです。
そして、この「声」は一人の個人のものではなく集団としての「声」となり発せられるのです。
日本企業は、戦後から家族的な経営を確立させ社員と経営は、多くの男性を中心とした長期雇用の暗黙の前提で契約関係を結んできました。
株主も企業に近しいステークホルダーで組織され、短期利益を拙速に要求してきませんでした。
このような風土の中で、日本企業は系列ごとに企業内の内部労働市場を発達させてきたのです。
内部の労働市場で通用する知識や技能、スキルに加えて、その企業でしか通用しない社内用語、社風の中で、できれば定年までという希望に基づいて人は働いてきたいのです。
しかし、そうした内部労働市場が発達するほど、外部労働市場は貧弱になります。
いったん企業という内部労働市場の外へ出てしまうと、新たな雇用機会や技能習得の機会などが極端に制約されてしまうのです。
このことは多くの学生も無自覚的に気づいています。就職活動に没頭させられ、一度就職したらその企業に長くとどまろうとします。
選社理由が、企業の成長よりも企業の安定に向かうことは、端的にそのことを表しています。
外部労働市場が貧弱であるから、多くの人は内部労働市場にしがみつこうとします。
より多くの人が内部労働市場に囲われてしまえば、それだけ外部労働市場の成長は抑えられることになります。
貧弱な外部労働市場は、労働者が企業間や産業間を移動することを難しくさせているのです。
政府が成熟産業から成長産業への間断なき労働移動といくら言ってもなかなかスムーズに施策が展開されないのはこのことによる弊害が相当大きいからとも言えます。
本来、そのような内部労働市場で明らかに不利な労働環境を強いられれば、先述した「声」が発せられることになるのです。
しかし、その声は、外部労働市場が正常に機能していて初めて説得力を持つのです。
どんなに、不平と改善要求の声をあげても、社員が外部に行きにくい環境では、説得力が薄いのです。
冒頭に申し上げた、日本企業では「人は組織に対してあまりにも弱い存在」というのはこういうことなのです。
ここからが本題です。
ではどうしたら良いのか。
私なりのこれからのシナリオをこの『これからの人と組織』で展開していきたいと思います。
まずは、リクルートキャリアコンサルティング社で学び発表してきた同社の論と提言を見てもらいたいと思います。
2013.07.01
黒川 賢一