1990年「株式会社リクルート」に入社し、18年間人材ビジネス部門に従事。2004年から大阪府の若者就業支援施設「JOBカフェOSAKA」の立ち上げから運営・サービス設計を担当。2011年「株式会社トリムタブ」を設立。
大学でのキャリア教育&未就業者支援から、マッチング&定着支援・人材育成に関する受託事業の運営、企業内の採用・育成コンサルティングや各種研修プログラムの開発を通じて、若者と中小企業を結ぶ新しいモデル開発を行う
表題は、JOBカフェOSAKA時代に、大阪府の職員の方々が、黒川さんの高い営業力に対して、愛情と冗談を含んで呼ばれていたニックネームです。黒川さんは不本意かもしれませんが、僕はこのニックネームが大好きで、第三者に黒川さんをご紹介させていただくときに、よく使用します。
このたび、様々な先生や経営幹部の方々と並んで寄稿させていただくのは、誠に恐縮なのですが、JOBカフェOSAKAから始まり、上司として、また人生の先輩として、10年以上お付き合いをさせていただいた後輩の立場から、黒川さんから学んだことを、黒川語録にのせてご紹介できればと思います。
「広さ」と「深さ」と「長さ」
この言葉は、JOBカフェ時代から語られてきて、僕の仕事をする上での基準として、常に大事にしている視点で、僕も自分のメンバーに語り継いできた言葉です。
まずは「深さ」の視点。これは担当する仕事の価値をとことん追求し、言語化していくことを教えられました。特に、公共事業に携わっている時には、「VFM(Value For Money)」の考え方を叩き込まれ、単なる仕様書通りの“無難な納品”ではなく、常に担当事業に対して、税金を使う価値を最大限に高めるように指導されたことが、独立した今でも大きな財産であり、このおかげで、肩書や知名度どころかホームぺージもないにもかかわらず、ご利用いただいた方々からのリピートや紹介でお仕事をいただけている原点であると感謝しています。
次に「広さ」の視点。黒川さんは、単に依頼された仕事をこなすだけでなく、その仕事に携わっている担当者や責任者の方々の価値観にまで踏み込んで共感された上で、仕事を進められているように感じます。そして、それぞれの人の立場や価値観に応じた対応を行うことで、多くの方々からご信頼を得ているのではないでしょうか。この点に関しては、僕は苦手領域なので、いつも黒川さんに頼ってアドバイスをいただいてばかりですが、少しずつでも黒川さんのように、考え方が違う多くの方々にご評価いただけるようになりたいと思っています。
最後に「長さ」の視点。仕事の本質的な価値を追求するあまり、時には担当者の方々と意見が異なる場合があります。そんな時僕などは「説得モードに入って論破する」か、逆に「あきらめて相手の意見に従うか」といった二項対立で捉えてしまうのですが、黒川さんは積極的な摩擦は恐れず、自分の考えを伝える一方で、「広大な中間地点」というものを大事にされて、「いずれ理解してもらえる」とお客様やメンバーを信じる力が強いと感じます。実際に、僕も黒川さんと何度も意見が違ってぶつかってきたのですが、後になって「黒川さんは、あの時こういうことが言いたかったのかもしれない」と感じることがたくさんありました。
割り切りは魂の弱さである
これは、文芸評論家の亀井勝一郎氏の言葉で、黒川さんのお話にはよく出てきます。
JOBカフェ時代、黒川さんは僕がいた大阪だけでなく、千葉・岐阜の拠点の面倒も見ながら、経済産業省やリクルート本社との調整もすべて1人で行っていました。それにもかかわらず、「答えは現場にしかない」と各地域を精力的に動き回り、常勤の僕たち以上に大阪のステークホルダーの方々や、メンバー1人1人の状況や課題を把握し、常に全力でアドバイスをくださいました。
現在、僕もフリーで複数のお客様と同時並行で仕事をしているのですが、体は1つしかないので、時間配分を考えながら優先順位をつけて、割り切って仕事をせざるを得ない場面が多々あります。しかし、黒川さんは「お客様にとって、自分の他の仕事は関係ない。どのお客様にも100%のパフォーマンスを出す。この程度でよいという割り切りはない」とどんなお客様にも全力で対応されます。僕は黒川さんほど人間ができていないので、黒川さんと一緒に仕事をしていると「割に合わない」と愚痴が出る時もありますが・・・でもやはり同じフリーとして活躍しておられる黒川さんのお客様に向かう真摯な姿勢は、本当に勉強になります。
「砂漠でストーブを売る男」という言葉から、多くの人は「エネルギッシュで口がうまく、砂漠で必要のないストーブでも売ることができる営業マン」をイメージされると思います。しかし、後輩である僕から見た黒川さんは、ここでご紹介したように、お客様以上にお客様や依頼された仕事のことを考え抜き、真摯に対応することで、「砂漠でも夜は急激に冷えるので、ストーブが必要」とお客様ですら気づかない新しい価値を提供することができるのではないかと思います。以前、仕事としては期待通りの結果が出なくても、「黒川さんと一緒に仕事ができてよかった」とおっしゃる担当者に出会うこともありました。僕は結果を出すことで信頼される営業担当者はたくさん見てきましたが、結果が出なくても「一緒に仕事をしてよかった」と評価され、継続した関係を続けられている人は、黒川さん以外に見たことがありません。
サッカー日本女子代表の澤穂希選手は、ワールドカップで優勝した際の試合で、メンバーに対して「苦しい時には私の背中を見て」といって、最後までハードアクションを続けたという話があります。JOBカフェOSAKA時代に黒川さんは40歳前後でした。今の僕は年齢的にはすでに当時の黒川さんをはるか超え、自分なりにも努力して成長してきたつもりですが、未だに黒川さんの背中に追いつくことはできません。それは、黒川さん自身が現状の成功体験に甘んじることなく、いくつになっても自己研さんを怠らずお客様と真摯に向き合った仕事を続けられているからだと思います。
これからも僕ら後輩に、そんな背中を見せ続けてください。今では僕も含めて黒川さんから離れてそれぞれ仕事をしていますが、自分が苦しい時や「お金のため」と割り切って仕事をしそうになった時に、黒川さんの仕事を見ながら追い続けていきたいと思っています。
2016年1月1日
岸守 明彦