ベリタス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長
1989年東京大学法学部卒業。株式会社リクルート入社、1995年4月株式会社リクルート組織人事コンサルティング室設立。プロジェクトディレクター(プリンシパル)。1999年6月株式会社リクルート退社。1999年10月株式会社エクシード取締役副社長就任。2000年2月株式会社コーポレート・パスファインダー(現ベリタス・コンサルティング株式会社)を設立、代表取締役社長就任。クライアント各社の経営課題解決を抜本的に支援するためのコンサルティング活動およびオーダーメイド研修の開発・提供を志し設立。以後国内外のネットワークを活用し“Small but Global” な事業展開を志向し、現在に至る。
当社は人材育成や人事制度の構築といった、企業の組織人事課題のコンサルティングに従事していますが、ここ数年は「グローバル人事」や「グローバル人材育成」をテーマとした依頼が急激に増えています。そうしたクライアントのサポートを行う中で、日本企業が本当の意味で競争力を高めていくために、組織・人事といった領域においては何をすべきなのか、私なりの考えが少しづつ固まってきました。
私見ですが、「グローバル競争力」を強化するために必要な組織・人事施策というのは、特に変わったことをするということではなく、つきつめて考えると「(国境を越えて)普遍的なマネジメントの在り方」や「(個別の国情と無関係な)営利企業として当たり前のこと」を“いかにして自社に合わせて仕組化・制度化するか”ということに尽きると考えています。もちろんその後の運用も大事ですが。
組織・人事の仕組み構築という観点からこのことを捉えると、いかにしてパフォーマンス・マネジメントとコミュニケーション・マネジメントを、ヒューマン・リソース・マネジメントと整合・統合させて構築し、一体となって運用させていくのか、ということが最も重要だと考えています。しかしもちろん、言うは易しで実現するためには並大抵ならぬ企業努力が必要となります。
例えばどの企業においても、業績の状況を把握して管理してくための仕組み、パフォーマンス・マネジメント(業績管理制度・管理会計制度といった内容)は行っていますが、本当にその事業にとって重要なKPIを明確に定義して、リアルタイムで把握できる仕組みを構築しているケースは案外少なく、ましてや、その仕組みをきちんと体系化して人事制度上の仕組み、特にMBO(目標管理制度)とリンクさせているケースは、実は非常に少ないと感じています。
また、やはりどの企業においても日報や週報といった業務報告の仕組みはあるでしょうし、週単位・月単位の会議なども行われていると思います。しかしながら、そこでなされているコミュニケーションの内容が、パフォーマンス・マネジメントの目的・趣旨ときちんと連動しているケースは決して多くはありません。会議体が単なる数字報告の儀式、伝達の場となっていて、業績向上のためのヒントを集める場、建設的な意見交換の場となっているケースは、残念ながら決して多くないのが実情です。ましてや提出された週報や会議の場での発言内容が、客観的な人事考課や戦略的な人材育成の材料として極めて重要である、ということをしっかりと認識して運用しているケースも、寡聞にしてほとんど聞いたことがありません。
90年代の後半以降、多くの日本企業において「成果主義型人事制度」の導入が図られてきましたが、残念ながらうまく定着できなかったケースも多く、「成果主義は日本企業に合わない」といった声も多数聞かれるようになりました。いわゆる職能資格制度に基づいた、ある程度の年功序列をベースとした「緩やかな成果主義」が日本に合うのではないか、そういった風潮、いわば“緩やかな社会的コンセンサス”が出来つつあるようにも感じます。
しかし私は、多くの日本企業において成果主義がうまく行かなかった大きな要因のひとつは、人事制度を単体として捉えてしまい、パフォーマンス・マネジメントやコミュニケーション・マネジメントに手を入れることなく構築・運用しようとしてしまったことがあるのではないかと考えています。
「長幼の序を重んじる日本人の特性」や「個人主義でなく集団の秩序やチームワークを重んじる日本人ならではの美徳」が成果主義の邪魔をしたという、よく言われる側面を全否定するつもりはありません。しかしながら、もし成果主義の人事制度と同時に、業績管理制度や会議体の在り方などを見直していれば、少しは状況が変わっていたのではないかと感じることも多いのです。
結局のところ、個人の仕事上の成果をきちんと評価してフィードバックし、次の業務活動につなげていく、この繰り返しこそが企業の成長を下支えします。その意味においては、あいまいな「能力」や「態度」「意識」といった要素(だけ)ではなく、明確な基準に基づいて業務上の成果を評価し、本人の査定に反映させることは至極当たり前のことと言えます。
言うまでもなく、「企業のグローバル化」は「世界の多くの人にとって分かりやすいマネジメントの仕組・制度を構築すること」と不可分であり、日本人だけが理解可能な仕組・制度でグローバル企業を運営しようとすることには無理があります。たとえ困難な道であるとしても、パフォーマンス・マネジメントとコミュニケーション・マネジメントと一体となったヒューマン・リソース・マネジメントの仕組みを構築し、しっかりと趣旨を従業員に浸透させたうえで運用に乗せていく、このことが最も重要だと考えています。
もう一点、「グローバル競争力」を強化する上で忘れてならないのが人材育成です。制度や仕組みがいくら整ったところで、その上で実際に働いて成果をあげる社員の育成が行われなければ、企業が発展することが出来ないことは言うまでもありません。
実際の仕事を通じた育成、研修やプロジェクト(タスクフォース)、ワークショップなどを通じた育成など手法は多岐にわたりますが、これからの時代は、自社の状況に合わせて戦略的な人材育成の体系を構築し、推進していくことがより重要になると考えています。
多くの企業において「グローバル人材」の必要性が叫ばれてはいますが、実際にどうやって育成していくのかに関しては、まだまだ手探り状態の企業が多いようです。私たち専門業者の果たすべき役割も決して小さくないと考えており、さまざまなクライアント企業と試行錯誤しながら、効果の上がる方法を日々模索しているところです。
特に海外進出の初期段階で必要となる「獣道(けものみち)人材」、つまり道なき道を進み、後進のために獣道を造っていける人材を育てる方法については、残念ながら未だに手探り状態の企業が多いと思います。バイタリティーにあふれ、失敗やリスクを物ともせず、場合によっては会社のルールを無視してでも道を見つけるために孤軍奮闘する・・・そういった人材が、本当の意味でのグローバル化には欠かせないのではないでしょうか。
グローバルな展開を志向しているかどうかは分かりませんが、黒川さんは、まさにそういった「獣道人材」の一人であると断言できます。少なくとも雇用・キャリアといった分野において、新しい道を切り拓いていける人材の一人であると確信しています。
閉塞感の漂う日本の人事に対し、ご一緒に新しい風を吹かせることが出来ればと願っています。
2013年6月25日
坂尾 晃司