東京大学大学院 経済学研究科・経済学部 教授
研究分野 主な関心領域/契約理論・金融契約、法律の経済分析、流動性の経済学、ゲーム産業
総合研究開発機構(NIRA)理事、日本応用経済学会理事、法と経済学会理事、事業再生実務者協会常務理事
今ほど、多様な働き方が求められている時代はないだろう。寿命は延び、社会は変化している。どの世代も、もっといろいろな生き方をしたいと考える人は増えている。が、そのような多様化は残念ながら進んでいない。
その理由のひとつは、「正社員」があまりにも窮屈で硬直的だからだ。フルタイムで場合によっては長期残業も求められる。子育てや介護のために何年も休むことは難しい。一度退職してしまうと、よほど能力がない限り復帰ができない。
だから、多くの人が安定を求めて「正社員」であろうとし、「正社員」にしがみつく。その結果、窮屈な働き方を、固定化された働き方を強いられることになる。
もっと、人々の実態にあった多様な働き方を実現させていくためには、「正社員」をもっと幅広く、多様なものにしていく必要がある。
そのためにまず求められるのは、制度的な改革だろう。しかし、それを待っていたのでは時間がかかるし、どのような改革が行われるかも不透明だ。だとすれば、それぞれが、自分ができる範囲で、自分の働き方を多様化する努力をしていくしかない。
そのためには社会のニーズに合った、世の中に必要とされる能力を身につけていくことも求められる。失業した人、転職をしようと思っている人、あるいは今の会社でより高い能力を身につけようとする人、それらの人々が必要と考える能力をできるだけ得られるような社会にしていくことが必要だ。
しかし、現実の経済環境の変化は激しく、いわゆる中高年の就職先、転職先がなかなかないのも現実だ。また、一人での転職、再就職はなかなか厳しいものがある。これからの社会で必要なのは、グループで転職を考える発想であり、そのための仕掛けづくりだろう。
黒川氏の新たなチャレンジは、このような私の問題意識にとても近いように思われる。このチャレンジは、きっと日本の働き方を大きく変える原動力になっていくに違いない。黒川氏の新たなチャレンジに強く期待したい。
2013年6月25日
柳川 範之